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【スタディツアー体験記】ペットボトルで体験する自閉症患者の世界──R-SIC潜入レポート (2)

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【スタディツアー体験記】1ミリのバネからはじまるオープンイノベーション──R-SIC潜入レポート (1)

自閉症体験ワークショップとは?

私が参加したのは「なぞ解きゲームで自閉症体験! 育て方・接し方を学び、良き理解者になるために」というスタディツアーでした。受入先である特定非営利活動法人ADDSは、自閉症の早期発見・早期療育を目指すべく、自閉症の子どもの「支援者」を育成していく団体です。なかでもこのツアーで深く印象残ったのは「自閉症体験ワークショップ」でした。

ワークショップで参加者は、3つの器具を装着します。まず顔には、ペットボトルで作られたゴーグルを装着。さらに耳には集音器を、そして手には分厚い軍手も装着します。

3つの器具をすべて装着した筆者。視野の狭さに非常に驚きました
3つの器具をすべて装着した筆者。視野の狭さに非常に驚きました

特にこのゴーグルによって、視野は極端に狭くなります。ペットボトルの周囲にはラップのようなシートが巻かれているので、中心以外の視界はほとんど遮断される状態です。

ワークショップではプリントが配布され、なぞ解きゲームを行います。参加者は「次は○番」といった具合に指示を受けながら、プリントの問題を次々に解かなければいけませんが、視野が狭いため、問題の一部にしか目がいきません。たとえば「5番の次は2番を解いて!」と言われても、5番から2番の問題に戻ることもままなりません。

そもそも分厚い軍手が邪魔をするのでプリント1枚を裏返すにも一苦労ですし、問題を解いている最中、補助の方が声をかけて支援してくれるのですが、集音器が周囲の音まで拾ってしまい、むしろいろいろな声が混ざって混乱します。そうした状態からパニックになり、しまいには支援者の声が聞き分けられなくなってしまうのです。

まだまだ早期発見・早期療育の理想に追いついていない……

こうして私たちは自閉症患者がどういう状態下にあるのか、まさに身をもって体験することができました。自閉症の子どもは「いつもキョロキョロしていて落ち着きがない」「視線を合わせられない」「パニックを起こす」というのがごく一般的なイメージなのかもしれませんが、この体験を通じて「そうならざるを得ないのか!」ということがよくわかりました。

ゴーグルからの視界のイメージ。明瞭に見える箇所がキャップ部分しかないため、極端に視野が狭い状態です
ゴーグルからの視界のイメージ。明瞭に見える箇所がキャップ部分しかないため、極端に視野が狭い状態です

私も「自閉症=心の病」といったイメージをたしかに持っていましたが「感覚が過敏になる」という状態を体験したことで、大きな気づきを得ました。そうした状態で支援者から支援を受けることはたしかに楽になる面もあるのですが、実際にはなにか自我のようなものが働いて、「助けてもらわずにも自分でやってみたい!」と考えたり、反対に、支援を受けすぎることで「相手に申し訳ない……」と遠慮したりしてしまうものです。

支援される側と支援する側の間に、なにかレベル感のズレのようなものがあると、最適な支援につながらないのではないか──そう感じることのできた体験でした。

自閉症の子どもとの共生に対して社会で求められるもの

自閉症の子どもに対して、日本では早期発見・早期療育の意識はあるものの、実際に早期療育に至っている自治体はまだわずか。また、ADDSでは「環境と個人の相互作用の視点から人間の行動の予測と制御を臨床場面で用いる」という応用行動分析学(ABA:Applied Behavior Analysis)という理論を療育のなかで取り組んでいますが、国内で同じように導入している自治体はまだまだ少ないようです。

ABAは、自閉症児への有効な療育法の1つであると言われています。その効果は科学的に実証され、徐々に認知度が高まってきています。自閉症の子供達は、さまざまな領域で苦手と感じる場面があるそうです。ABAを利用した働きかけを利用すると、子どもの自己肯定感を高めることができます。

具体的には、苦手な事を細かい作業に分割し(「スモールステップ」と呼ぶそうです)、その作業が出来たら褒め、成功体験をかさねて自己肯定感を高めていく学習法だそうです。ADDSではそのABAの考え方に基づき「当たり前に見える小さなことでも褒めてあげられるよう、丁寧に受け止めて褒める回数を増やす努力」をされていました。

そうした社会を背景に、ADDSのスタッフの方が「みんなで自閉症の子どもたちや保護者の方々を支援できる世のなかにできればいい」とお話されていたことが印象的でした。自閉症の子どもを持つ母親は、特に孤独を感じているかもしれません。「合理的配慮」という言葉にあるとおり、障害を持っている子どもが、そのほかの子どもと同様に学べるよう、それぞれの障害の特性や困りごとに合わせて配慮が必要だと強く感じました。

たとえば、ママ友にも義理の親にも相談しにくい状況下、関係者間の互助的な役割を担うセキュアなSNSのようなしくみも、1つのかたちなのではないかと思いました。

しかし他方で、支援する側・される側の関係を最適化することは、ICTだけでは解決しにくい問題だと思います。ICTである一面までは解決するかもしれませんが、私が体験したコミュニケーションはもっと“アナログなレベル感”。コミュニケーションにおいて、患者さん個々人が抱えるハードルの高さはとても微妙なレベル感の差があります。

もう少し具体的に書くと、生活に支障をきたすほど症状が強い方から、症状が軽度で日常生活にほとんど支障なく暮らせる方まで様々です。そのレベル差は画一的に決められるものではなく、症状の強弱によって百人百様のサポートが必要となり、絶妙なアナログのレベル感が必要となる訳です。

私たちICTベンダーも、決してデジタルに踊らされてはならず、肌と肌のつながり、人と人の直接的なコミュニケーションを大切にしています。ICTで解決できることもあるけれど、それだけで解決しないことが確実にあるのではないでしょうか。

スタディツアーの後に、全員でツアーの内容を共有するワークにも参加しました。グループのメンバーは全員赴いたツアーが異なり、グループメンバー分だけ社会課題に触れることができました
スタディツアーの後に、全員でツアーの内容を共有するワークにも参加しました。グループのメンバーは全員赴いたツアーが異なり、グループメンバー分だけ社会課題に触れることができました

もう1つ感じたことは、これからの働き方です。この先、仕事の自由度が上がっていけば、会社の“自分”だけではなく、ソーシャルな活動にも“自分”の身を置く活動が拡がっていくでしょう。そうした生き方を選択する個人を会社が応援してあげられるしくみが整っていけば、自閉症といった社会的な問題も少しずつ解決に向かうのかも知れません。

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